ニューアルバム「Not Unusual」オフィシャルインタビュー〈 全曲解説あり 〉

阿部真央からニューアルバム「Not Unusual」が届けられた。
記念すべき10作目となる本作には、「READY GO」(NHK『アニ×パラ』テーマソング)、「Be My Love」（ドラマ「僕らは恋がヘタすぎる」主題歌）、「ふたりで居れば（Album Ver.）」（ドラマ「おじさまと猫」エンディングテーマ）、「Never Fear」（TVアニメ「人間不信の冒険者たちが世界を救うようです」エンディング主題歌）など全12曲を収録。歌詞、サウンドメイク、ボーカルを含め、シンガーソングライター/アーティストとしての新たな表現を切り開いた作品だ。

前作「まだいけます」（2020年1月22日）以来のフルアルバムとなる本作。そこには当然、この3年間の軌跡――そのなかで経験したことや、彼女自身に訪れた様々な変化――が反映されている。「この3年は、長かったですね。自分で変化を起こそうとしていたから、けっこう大変でした」という彼女。アルバム「Not Unusual」を紐解くためには、その変化の内容を理解する必要があるだろう。

「2020年、2021年、2022年で分かれている気がして。まず最初の年（2020年）は、アルバム『まだいけます』を出した後、すぐにコロナ禍になって。どうしたらいいかわからない状態でしたけど、活動が止まったことで、自分を見つめ直すことができて、”私、限界だったのかも”と気づいたんです。原因の根本は、“自信のなさ”なんですよね。人より多少は歌が歌えて、たまたま曲が書けたからデビューできたんですけど、ありのままの自分に自信がない状態で社会に出ると、けっこう大変なんですよ。特にアーティストには、“私はこれだ”という強いものが必要。それがあるからこそ世間の声に屈することなく、自分の色を打ち出せるんですけど、私はそれが出来なかった。自分のことも好きじゃなかったし、“不足していることが多い”とずっと思ってたんです。世間の評価が上がっていくにつれて自分とのギャップが広がっていくと、今度はそれに対応するようになってしまって。ロックな感じに見えてるんだったら、ロックガールでいようとか。“長い髪がきれいですね”と言われたから、髪は切ってはいけないとか。もちろん曲のなかには自分らしさがあるんだけど、良くも悪くも人の意見に左右されていたんですよね。渦中にいたときはわからなかったんだけど、コロナ禍になってすべてが止まったときに、“限界だったんだな”とようやく気づいて。それが2020年の終わり頃かな」

自分自身を振り返り、外からのイメージに合わせていたこと、限界を感じていたことに気づいた阿部真央。2021年はさらに深く自分と向き合い、不安の理由を探る日々を送っていたという。
「自分の不安や苦しいことを見るのって、イヤじゃないですか(笑)。でも、がんばって不安と向き合って、“これが原因だったんだな”と答えがわかるとかなりラクになるんです。その後は、いままで無視してきたというか、見ないようにしてきた問題が浮き彫りになってきて。“ここはたぶん、私が学ぶことをおざなりにしてきた部分だな”っていうことがどんどん見えてきたから、それをどうにかしようと。そうすると行動や結果も変わってくるし、次に不安がやって来ても“またアレでしょ。知ってるよ”って思える。要はメンタルが強くなるんですよ。そのうちに“まだまだ足りないところはあるけど、そこまで卑下することないかも”と思えるようになって、髪を切って染められるようになって、人の目をラクに見られるようになって。メンタルを底上げできて、自分の価値を認められるようになった。そこからですね、今回のアルバムの制作をはじめたのは」

自分を縛っていた葛藤や苦しみを認め、少しずつ歩みを進めるなかで彼女は、様々な新しいトライアルをはじめる。その一つが、ピアノによる作曲だ。これまではギターで曲を作ることが多かったが、鍵盤を独学で弾き始めたことで、楽曲のバラエティは大きく広がることになった。
「2020年末に鍵盤を触り始めたんですけど、とにかく何かを変えないとダメだなと思ったし、自分が苦手なこと、めんどくさいと思うことにヒントがあるんだろうな、と。ピアノはぜんぜん好きじゃなかったんですけど(笑)、“嫌いだからやってみる”“めんどくさいけど、やるか”ということですよね。実際にやってみて思ったんですけど、ギターの方が大変なんですよ、じつは。ギターって１つのコードを押さえるにも技術が必要だし、最初は手が痛いじゃないですか。ピアノはそうじゃなくて、ドミソを押すと、きれいな和音になるので。超簡単です(笑)。2022年にはライブで披露する機会もあったんですよ。鍵盤で作った曲はもちろん、ギターで作った曲をバンドメンバーに交じってピアノを弾きながら歌ったり。まあ、今も大して弾けないんですけど(笑)、多少は慣れてきたのかなって」

精神的、音楽的な変化はもちろん、楽曲のアレンジや、そして彼女のボーカルにも影響を与えている。アルバム「Not Unusual」の特徴でもある音数を抑えたサウンドメイクもその一つ。その結果、阿部真央の生々しいボーカル表現がダイレクトに堪能できる作品に結びついているのだ。
「確かに今回のアルバムは音数が少なくて、シンプルだと思います。ギターと歌、鍵盤と歌という弾き語り的な構成の曲もあるんですけど、それをやりたくなったんですよね。弾き語り自体は前からやってたんだけど、バンドサウンドが全面に出ていたから、そこはかなり違うのかなと。歌に関しては……もっともっと上手くなりたいと思っていて。海外のオーディション番組とかもそうだけど、歌が上手い人っていっぱいいるじゃないですか。私も“こんなんじゃダメだな”と思ってますね」 アルバムタイトル「Not Unusual」は、“よくあること”“珍しくない”という意味。
「そういう歌を歌っていきたいんですよね、結局。珍しくないこと、派手じゃないことのなかにある感情――幸せはもちろん、悲しみや不安も――を描きたいし、ありふれた日にも聴けるアルバムにしたいという気持ちもありました」
　さらに彼女は、「このアルバムを作ったことで、先のビジョンも見えてきました」と言葉を重ねる。
「ファンのみなさんとの距離がもっと近くなるでしょうね。歌うことに対するマインドも変わりました。以前は自分のイメージにしがみつくように歌っていたけれど、そうじゃなくて、“今の自分が出せる力量を届ける”というスタンスになれた。今までの自分を否定するつもりはないですけど、これからは本当の感動を届けられると思ってます」

楽曲紹介

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之